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A
surprising present その5
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『なるほど、話は判った』 さっさとニンフ達と遊びに行ってしまったタナトスを見限って、ヒュプノスはハーデスの元へ二人を連れて行く。 『やはり失敗したか……』 「何の事だ」 パンドラは見上げてばかりで首が痛くなったので、ラダマンティスに抱えて貰っていた。 『それは直接ハーデス様に聞いた方が良い』 ヒュプノスはパンドラの顔を見ずに返事した。 どうやら全ての原因はこちら側にあったらしい。 |
「ハーデス。無事か!」
パンドラは弟の眠る柩を開ける。 そこには冥王が、長い休息の眠りについていた。 その彼が、目を覚ます。 力をほとんど聖戦の時に削られたので、今の彼には攻撃的な力はほとんど残ってはいない。 『姉上か……』 「ハーデス。無事だったか。 ……よかった」 彼は姉の様子に少し驚くと、彼女をひょいと抱き上げる。 『随分と可愛らしい姿に……』 弟の方が断然、年上に見えるのだから妙な光景だとラダマンティスは思う。 「城にあるハープを弾いたら、こうなってしまったのだ。 其方にも何かあったのではないかと、気が気ではなかった」 パンドラの不安げな表情に、弟は困った様な表情をした。 『ハープを弾いたら……』 「原因は、まだ判ってはおらぬ」 『やはり、少々改良に余地があるようだ……。 でも、可愛らしい姉上が見れたから良しとしよう』 冥王は、そう言って彼女に寄り掛かると再び眠ってしまう。 「ハーデス。どういう事だ!」 パンドラは寄り掛かれながら必死になって弟を起こそうとするが、もう起きる気配がない。 結局、柩の中からラダマンティスがパンドラを救出し、ヒュプノスが再びハーデスを横にさせた。 |
「これはどういう事だ」
するとヒュプノスが一言で言い切った。 『ハーデス様が、タナトスに命じてハープに特別な機能を付けさせたのだ』 姉であるパンドラに力を与えたくて、ハープに電撃以外に幾つか攻撃機能を持たせたらしい。 もちろんタナトスに改造は出来ない。 単に、彼が神々の鍛冶屋と言われるキュクロープスたちに依頼しただけである。 本来、武器専門の彼らだったが、今回は武器改造と言う感覚で作り直してくれた。 でも、やはり機能が上手く作動しなかったらしい。 「ハーデスが、そんなにも私の身を案じてくれたとは……」 弟の行為にパンドラは感激しているが、ラダマンティスは渋い顔をした。 (キュクロープスと言ったら、稲妻作りの専門家だ……) お仕置きに神々の稲妻級の電撃を使わせるのも酷い話なのに、それ以上の機能をハープに持たせる冥王のパンドラへの溺愛っぷり が恐ろしい。 『後でキュクロープスを派遣する。 問題点を言えば、即修理をしてくれる筈だ。 今の状態は不完全な効果の現れだ。 しばらくすれば元に戻る』 ヒュプノスは慌てた様子も見せずに説明するので、パンドラとラダマンティスは納得するしかなかった。 |
そして翌日、パンドラは元の姿に戻り、地上のハインシュタイン城へ戻った。
一応、ハインシュタイン城の人間には、小旅行に出掛けたと言ってある。 同じ日に、明らかに人ではない感覚を与える鍛冶屋がハーデス城へやって来た。 名をアルゲース(閃光の神)というキュクロープスだった。 彼はパンドラのハープを直すと、説明書を置いて帰ってゆく。 その書類を見たラダマンティスは、パンドラが使ってしまったハープの機能が何なのか予測が付いた。 『子守歌 ─ 聞いた者の過去を呼び覚ます。たまに過去の姿に変化させる追加効果あり』 彼はパンドラが、ハープの機能を音楽に疎い自分に試そうと思わない事を願ってしまった。 |