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そのままの君でいて
〜春麗18歳〜 |
「やはりこれは失敗でしょうか?」
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「多分、環境が違う事が最大の原因だろう。
元々、自然界の、それも地域限定の植物を人工的に繁殖させようと言う方が無理なのだ。土だって多少私が配合したものを使っている。 これは劣悪な環境下でこそ、自己主張の強い茸に育つのかもしれない」 意味は判るとして、結構酷い説明だとムウは思ったが、アフロディーテの性格は判っていたので今更気にはしない。 「つまりここでは温室育ちのようなものなので、ひ弱な茸になってしまったという事でしょうか?」 「いくら温室育ちでも、ここはバラ優先だ。 多少は茸に方もストレスがあると思うが、もしかするとそれ以上に順応性が高いのかもしれないな」 何か栽培の仕方を間違えている会話だが、二人はそんな事を気にしてはいなかった。 「順応性が高いという意見には賛成します。 何せこれは101年に一度しか生えない男態山のヲトコ茸ですから、やはり半端でない逆境とストレスがないと、何の特徴もない茸になってしまうんでしょうね。 彼もそういう意味では、あの逆境があってこそのキャラだと思いますし……」 ムウは誰かを思い出して溜息をついた。 「しかし、私としてはのっぺりとした何の変哲もない茸で良かったと思う」 そんなムウを見て、アフロディーテは苦笑している。 「何故ですか?」 「あんな強烈な姿の茸を上手に育ててしまったら、自分の中で何かが崩壊しそうだったし、量産の手伝いなんて御免だからな」 ムウは手に持っていた『男態山の由来』という本を開く。 しおりの挟んであるページには、2種類の茸の写真が掲載されているのだが、そのうちのヲトコ茸の写真には、傘の部分に厳めしい中年男性の顔のような模様が浮かび上がっていた。 しかし、目の前の茸の傘の模様は、どちらかと言うと意志の弱そうな男性の顔に見えない事は無い。 そこへ数羽の蝶が松の周りをひらひらと飛んできた。 |
結局、ムウは実験の失敗作をどう処分しようか考え始めた。
せっかく軟弱なヲトコ茸が出来たのだから、後学のために薬を作って結果を見てみたい。 (相手はアイオリアか紫龍にでもしておきましょう) 良心の呵責というものを持っていない発言のように思われるが、これは彼なりに主義主張がちゃんとある。 この二人はムウにとって、 『彼なら大丈夫』 と、それなりに信頼していると言えない事も無い、根拠の全くない判断を簡単に下せる希有な人材なのだ。 |