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伏兵 その前

○ 玄武
 闇の力に対して、何かしらの抵抗手段を持っているであろう女性がいる。
 アンドロメダ瞬からそれを聞いたとき、玄武はこれで【隕石】の調査が出来ると思った。
 あれはアプスが倒された今でも、落下地点周辺に闇の力を拡散し続けている。

 その為いつか光牙がそこへ行きたいと願っても、魔傷をその身に受けた女神アテナや蛇使い座の白銀聖闘士シャイナは連れて行くことが出来ない。
 何かの拍子に魔傷の再発や身体に負荷がかかる可能性があるからだ。
 そして何の手だても講じずに、あの場所へ行くことは出来ない。

「では、俺がエデンと一緒に雷の遺跡へ行こう」
 少なくとも闇には多少なりとも抵抗がある。
 玄武としては最良の提案をしたと思った。

 しかし、アンドロメダ瞬の目つきが氷のように冷やかだった。
 怒っているようにも見える。
 そしてそんな彼の横では、サジタリアスの星矢が玄武に対して「それはダメだ」というジェスチャーをしていた。


○ 龍峰
 龍峰は玄武から瞬に睨まれたという話を聞いたとき、ようやく合点がいった。
(瞬さん、その人に会いたかったんだ……)
 マルス軍が勢力を誇っていたとき、龍峰はひょんなことから瞬に保護してもらった。
 そして彼の傍での療養中、夜中などにそっと瞬が家を抜け出していることに気がつく。
 しばらくして戻ってくるので、それとなく尋ねてみると散歩だという返事。
 それ以上は尋ねなかったが、龍峰から見れば瞬は何かを探しているように見えて仕方がなかった。
 
 実際に探し求めていたのは姉弟子であり恋人の女性。そこまで思いを寄せているのだ。
 雷の遺跡から行けるであろう闇の遺跡攻略を、他の聖闘士に任せる気にはならないだろう。
「玄武さん、人の恋路を邪魔するところだったね」
「まったくだ」
 二人は小さく笑った。


○ シャイナ
 隕石の調査もさることながら、光牙とアリアの事は今でも何一つ分かってはいない。
 マルスとの決戦の場所は、人家などからかなり離れていた。
 何しろ、その地域の人たちが【聖地】と呼んでいたくらいで、人間の侵入は禁じられていたのだ。
 それだけのパワースポットだったので、逆に魔女メディアは思い切ったことが出来たとも言える。

 とにかくそんな場所に、二人の赤ん坊を連れた人間たちがやってくる方がオカシイ。

「あの場所で、生贄の儀式が行われようとしていたんじゃないか」
 女神も自分も同じことを考えた。

 では、赤ん坊たちはどのような存在に捧げられる生贄だというのだろうか。
 シャイナは病室で眠り続ける教え子を見た。
 光牙が聖闘士として育てる。それが彼自身を守ることなのだと信じて。
 敵が誰なのか。どれほどの存在なのか分からなかったから、光牙に教えることが出来なかった。

「あんたにはまだやることが残っているんだよ」

 しかし、教え子は何の反応も示さなかった。