ANIME-目次

   

岩と荒野の世界

吹雪の場面。
父の後ろを歩いている自分。
しかし、いつしか父に背負われていた。
雪の中を歩いている最中に倒れたのだ。


「あっ……」
ミーメは意識を取り戻すと、勢いよく上体を起こした。
「やっと気がついたか」
近くに座っていた魔矢が話しかける。
「私は気を失っていたのか……」
周辺を見てみると、さっきまでいたのが水の世界ならば、今度は岩と荒野の暗い世界だった。

『封じられていた場所に力を奪われただけだ』
急に聞こえてきた女性の声に、ミーメは驚いて再び周囲を見回す。
「今の声は!」
聞き覚えがあるのだが、誰なのか思い出せない。
そんなミーメの様子に、魔矢は表情を曇らせた。
「オルフェウス。エリス様が見えないのか」
「エリス様?」
名前を呟いたとき、ようやっと魔矢の傍に女性がいるのが分かった。
ただし、その姿は幻のように透けて見える。

『どうやら、オルフェウスの魂に楔を打ち込んだものがいるらしい』
今度はちゃんと意識しても、やはりミーメに女性の姿は声ほどハッキリとしなかった。
「エリス様、どういうことですか?」
『今のオルフェウスには異国の闘士としての宿命の方が重要なのだ。
だからこちらの神である私が見えなくなっているのだろう』
アスガルドの闘士としての自分が存在するのは、あの地に仲間を得たからであろうか。
「エリス様、それではオルフェウスはどうなるのですか!」
慌てる魔矢とは対照的に、女性は動揺してはいない。
『元に戻すのには、楔を記憶から抹殺すれば良いだけだ』
エリスという女性の言葉に、ミーメはドキリとした。
脳裏に浮かんだのは、父との暮らしだった。
(それを消す……)

『オルフェウス、邪魔だと思うのなら楔を取り除いてやろう』
女性の手がミーメの髪に触れようとしたとき、彼は頭を動かした。
「やめろ!」
アスガルドの神闘士としての自分を否定されることは、彼にとって耐えられなかった。
「私はエータ星ベネトナーシュのミーメだ」
素早く彼女らから離れる。
それ以上の交渉は拒絶するつもりだった。
ところがエリスのほうが、ミーメの反応を面白がっていたのである。
『オルフェウスは愉快な生き方を選んだようだ』
「エリス様……」
『まぁいい。オルフェウスがそれを選んだのなら尊重しよう』
彼女の言葉にミーメは拍子抜けしてしまった。
もっと面倒なことになるかと考えていたからだ。
この時、遥か上空に三つの光が見えた。
『戻ってきたようだ』
ミーメも空を見上げた。
「オルフェウス、ジャガー達のことは思い出せるか?」
魔矢の問いかけに、ミーメはしばらく考えながらも頷いた。
「なんとなく思い出せる」
「それはよかった」
ほっとする魔矢の背後に、三つの光は降り立つ。
そのうちの一人は、肩に人を担いでいた。
気を失っているらしいが、どう見ても闘士である。

『さて、セイレーンの海将軍も招待できたし、アテナに会いに行くぞ』
エリスの言葉に、ミーメは何のことなのか全然分からなかった。