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麻森は寺の住職に挨拶をした後、墓地へと足を進めた。 今更報告をした所で、相手から意見が聞けるはずは無い。 しかし、報告をせずにはいられなかった。 (もうすぐ、我々を裁く者がやって来る) ただ、その時を待ち焦がれたのは自分よりも『彼』だった。 |
城戸 光政 日本でも有数の権力と財力を持つグラード財団の前総帥。 今は鬼籍の人となってしまったが、もし生きていたら……。 そう考えて、麻森は思わず苦笑してしまった。 彼らに会いたいと願い続けた光政翁は既に亡く、会いたくないと願い続けた自分が生きている。 (皮肉なものだ……) だからこそ、自分は彼の代わりに事の次第を見届けなくてはならない。 |
ふと、麻森は城戸家の墓前に誰かいることに気が付いた。 「?」 見知らぬ人物だったが、何処か聖闘士の少年たちを思い起こさせる。 それは眼差しが闘う者特有の厳しさがあった所為だろうか? 相手は麻森に気付く。 「貴方が麻森博士か」 男の声は何かを確かめるようで、親しみのある口調とは言い難い。 「そうだが……」 今度は麻森の方が尋ねてみる。 この時、向こうが適当に返事をしていれば、麻森としても奇妙な人物だという感想で終わった事だろう。 しかし、その人物は強烈な先制攻撃をしてくれた。 「私はアーレス。以前、聖域で教皇職を勤めていた者だ。 女神アテナを日本へ避難させてくれて感謝する」 その言葉に麻森は全身の力が抜けるかのようなショックを受けた。 (沙織お嬢様は……、女神アテナは今、聖域にいる) 冥王ハーデスが動き出す気配があるという。 それよりも何よりも、教皇アーレスは逆賊に殺された筈。 その人物が目の前に居る。 (これは冥王の策略なのか?) その時、アーレスが西の空を見た。 日が沈むにはまだ早いというのに、太陽の光が徐々に弱くなっていったのである。 麻森には、まるで光の力が弱まったように感じられた。 そして永遠の闇が訪れたように思えた。 |