ANIME-目次


墓標 その1

麻森は寺の住職に挨拶をした後、墓地へと足を進めた。
今更報告をした所で、相手から意見が聞けるはずは無い。
しかし、報告をせずにはいられなかった。

(もうすぐ、我々を裁く者がやって来る)

ただ、その時を待ち焦がれたのは自分よりも『彼』だった。

城戸 光政

日本でも有数の権力と財力を持つグラード財団の前総帥。
今は鬼籍の人となってしまったが、もし生きていたら……。
そう考えて、麻森は思わず苦笑してしまった。
彼らに会いたいと願い続けた光政翁は既に亡く、会いたくないと願い続けた自分が生きている。

(皮肉なものだ……)

だからこそ、自分は彼の代わりに事の次第を見届けなくてはならない。

ふと、麻森は城戸家の墓前に誰かいることに気が付いた。
「?」
見知らぬ人物だったが、何処か聖闘士の少年たちを思い起こさせる。
それは眼差しが闘う者特有の厳しさがあった所為だろうか?

相手は麻森に気付く。
「貴方が麻森博士か」
男の声は何かを確かめるようで、親しみのある口調とは言い難い。
「そうだが……」
今度は麻森の方が尋ねてみる。
この時、向こうが適当に返事をしていれば、麻森としても奇妙な人物だという感想で終わった事だろう。
しかし、その人物は強烈な先制攻撃をしてくれた。

「私はアーレス。以前、聖域で教皇職を勤めていた者だ。
女神アテナを日本へ避難させてくれて感謝する」

その言葉に麻森は全身の力が抜けるかのようなショックを受けた。

(沙織お嬢様は……、女神アテナは今、聖域にいる)
冥王ハーデスが動き出す気配があるという。
それよりも何よりも、教皇アーレスは逆賊に殺された筈。
その人物が目の前に居る。

(これは冥王の策略なのか?)

その時、アーレスが西の空を見た。
日が沈むにはまだ早いというのに、太陽の光が徐々に弱くなっていったのである。
麻森には、まるで光の力が弱まったように感じられた。

そして永遠の闇が訪れたように思えた。