目次

98.無駄な夢 (場合によっては要注意かも……)

極秘事項というのは、どんなに隠していても噂というものに姿を変えて人々の前に現れる。
パンドラの準備した『カメレオン座の聖闘士をちょうだい計画』は、アンドロメダ座の聖闘士によって阻まれた。
だが、 その話が完全に立ち消えるには少しばかり時間が必要だった。

ガルーダ編
ガルーダは書庫から動物図鑑を引っ張りだす。
ヘビの項目をめくると、【爬虫綱有鱗目ヘビ亜目】と書かれている。
次に開いたカメレオンのページはというと、【爬虫綱有鱗目トカゲ亜目】とあった。

『……』
「何をやっているんだ?」
アイアコスはガル−ダの背後から、動物図鑑を覗き込む。
『カメレオン座……』
意外な言葉にアイアコスは自分の冥衣を見る。
「それがどうした?」
『美味しい?』
ガルーダの問いに、アイアコスはたっぷり三分ほど沈黙してしまう。
『?』
「……ガルーダ。俺がそれを確認するには、色々と手順が必要だ。
少なくとも、俺が向こうに気に入られないと無理だ」
『それなら……大丈夫』
ガルーダは自分の主人の言葉に納得すると、再びカメレオンの写真を見た。
その様子は、どこか嬉しそうだった。


グリフォン編
『ミーノス様!』
自分の執務室に戻ったミーノスは、グリフォンの冥衣が羽をパタパタを動かしているのを見て、 何かとても興奮しているのだと言うことに気がついた。
「どうかしましたか?」
『あの……。カメ ・レオン(地の獅子)座って強いですか!!』
グリフォン自身も身体に獅子の部分を持つ。
そのせいか、カメ ・レオンを一時的にもパンドラが所望したということが気になったらしい。
ミーノスはしばらく考えた後、静かに答えた。
「強いというか手強いかもしれませんね。
まず向こうに警戒されたら、勝負どころの話ではありません」
『ええっ! そんなにすごいのですか』
「こっちが紳士的に振る舞って、ようやく認識してもらえるかもというほど向こうが優勢です」
グリフォンはミーノスの言葉に物凄い衝撃を受けていた。
そしてミーノスはというと、こっそりと笑いをこらえていたのだった。

ワイバーン編
ガルーダ・グリフォン・ワイバーンの冥衣たちが、冥界のお花畑に集まっていた。
『ところで、カメレオン座の聖闘士の話を聞いた?』
グリフォンの質問にガルーダとワイバーンは頷く。
『もしきたら、パンドラ様が傍に置くのかな?』
しかし、この問いには首を傾げる。
『もしかして……交代』
ガルーダはワイバーンを見た。
『…………』
ワイバーンはショックを受けたのか、うなだれてしまう。
『ワイバーン。大丈夫だよ。
君の尻尾にリボンを付けて遊ぶのが好きだって、パンドラ様は言ってたじゃないか』
『そう言ってた……』
しかし、ワイバーンは寂しそうに尻尾で【のの字】を書く。
『ワイバーンはもっと自分に自信を持って!
地上に戻ったユリティースちゃんは、君が遊びに行くとお歌を歌ってくれる。
たまに女神アテナもお話ししてくれるし、今度エスメラルダちゃんにお花をあげる約束だって取り付けたんだろ。
ニッポンにいるエリイちゃんも、たまにお菓子をこうやってくれるくらいになってくれた』
彼らの真ん中には、可愛いくラッピングされた袋に手作りクッキーがあった。
食べる食べないは別として、お花畑にお菓子という構図は華やかだった。
『それに……海』
『そうそう、最近は海闘士のテティスちゃんと浜辺で逢う機会が増えているって言ってたよね』
『…………』
『何を気弱な事を言っているの! 
海の警護だけだったら、何度も逢ってはくれないよ。
ワイバーンは女の子に対して引っ込み思案すぎる。
大丈夫。カメレオン座の女の子と仲良くできるよ』
グリフォンの力説に、ガルーダが頷く。
『もしかするとカメレオン座の女の子はラダマンティス様も気に入っちゃうかもね 』
『…………』
『それは……やだ』
今度はガルーダが羽をパタパタと動かす。
『絶対……アイアコス様。選んでもらう』
ガルーダの決意に、ワイバーンとグリフォンは顔を見合わせたのだった。

その頃、ハーデス城の一室では、冥界に集音装置を持ち込んだ冥闘士の背中に冷や汗が流れていた。
もともと集音装置の持ち込みは、冗談だった。
でも、どういう効果が出るのか確認しようという事になり、三巨頭の前で装置を作動させたのである。
昔と違って不老不死を求める者たちが、機械の力を借りている事が増えてきたからだ。
そして集音装置は花畑での会話を拾ってしまう。

「これは凄い事になりましたね。
グリフォンたちの暴走も止める必要がありますが、まずは聖域や海側を抑えるのが先決でしょうか」
ミーノスは腕を組んで考え込んでしまう。
アイアコスも頭を抱えた。
そしてラダマンティスはというと、ワイバーンの行動力を知って倒れそうになっていたのだった。

この話の後日談 【77. ストレス