目次

15. カレンダー

その情報をもたらしたのは、ワイバーンの冥衣だった。

「もうすぐ地上では冬至を迎える。闇に潜む者たちにとって絶好の機会だろう」
ラダマンティスは執務室のソファに寄り掛かった。 目の前のテーブルには、可愛らしくラッピングのされたお菓子の袋が置かれている。
中身は手作りのクッキーで、人からの貰い物だった。
「あそこは聖域の管轄でしょうから、我々が出る必要はありませんよ」
ミーノスはキッパリと言い切る。だが、ラダマンティス自身はそこまで割り切れなかった。
二人は三人目の仲間であるアイアコスに視線を移す。
「貴方はどう思いますか?」
その問いかけに、アイアコスは笑って答える。
「俺が行こう」
その単純明快な言葉に、二人の方が驚いた。

「アイアコス。何もお前がわざわざ行くことも無いだろう」
「そうです。聖闘士に連絡をすれば済む話です」
しかし、アイアコスの意志は固かった。
「聖域に連絡をしてみろ。大騒ぎになるだけで何の益もない。星の子学園とやらの場所を教えてくれ。秘密裏に片を付ける」
「……」
「エリイという少女は女神エリスの依代だ。魔に属する者たちにとって、女神の依代を生贄にして何かを成し遂げたいと考えるだろう」
「だから、それは聖闘士に言えば……」
その意見をアイアコスは素早く遮った。
「あいつらは光の側だ。しかも海の深さも闇の濃さも甘く見ている。もし既に気がついているのなら、こんな情報をワイバーンが寄越すわけないだろ」

二日ほど前、ワイバーンの冥衣は絵梨衣からお菓子を貰った。このとき、彼女の呟きを耳に留めたのである。
「最近、へんな視線を感じるのよね。気のせいかもしれないし、美穂や氷河さんに心配をかけちゃうから言えないけど……」
ワイバーンとしては地上に遊びに行くとお菓子をくれる優しい少女の窮地である。 (98/無駄な夢 参照)ぜひとも助けたい。彼は速攻でラダマンティスにこのことを伝える。 そしてラダマンティスはというと、知らぬ少女というわけではないのでそれとなく調べたら得体の知れない組織を見つけたのだ。

「それに、エリイに何かあって女神の怒りを買うのは御免だ」
何かを誤魔化すようなアイアコスの言葉だった。 ミーノスはすぐに、その意味に気がつく。
「そうですね。聖域に迷惑をかけたくないといって姿を消されるのも面倒ですから、このことはエリイさんにも秘密にしてください」
では、どうやって事態を収拾するか。
今の段階では時間が足りず、組織の規模も本当に絵梨衣狙いなのかも確認が取れていない。
「年末を日本で過ごすつもりで動かないとなりませんね」
「わかった。ゾウニ(雑煮)というものも食べてくる」

(話をすり替えるな!)
と、彼はツッコミを入れたかったが、海外の食文化に対して理解があるのは美徳かもしれない。
しかも、この仲間の実力に関しては心配しなくてもいいのだ。
適材適所。ラダマンティスはそう考えることにした。