目次

10. 水

続々・夜行 4 より

深い闇が訪れたハインシュタインの森。
クイーンは不審者が存在しないか周囲を見回す。
ギガントマキアの後、森は静かだった。
だが、葡萄の木に封じられた巨人族の攻撃的な気が森に残っているため、魔に属する者たちが引き寄せられていないかと冥闘士たちが警戒にあたっていた。

闇だけが存在するはずの空間に、遠くの方で何かが光る。
(何だ?)
クイーンは光の方へ移動する。
途中で同じように謎の光に気がついたミューと合流した。

光の許へ駆けつける。
そこには松明を持って女性らしき存在を担いでいる聖闘士がいた。
「アンドロメダ。何をしに来た!」
ミューが顔見知りの聖闘士に声をかける。
クイーンは聖闘士が担いでいる存在の方が気になった。

ハインシュタイン城周辺の見回りを終え、 シルフィードは城の厨房にてカップにコーヒーを注いだ。
外で仲間が何かを言っている。
強烈な殺意は感じられないので、緊急事態ではなさそうだと彼は思った。
ただ、珍しいなと心の中で呟いたのだった。

しばらくして、彼はその人物が近づいてくるのを察した。
「……」
バンという音と共に、ドアが荒々しく開かれる。
「何なんだ。あの男は!」
アウラウネのクイーンがやって来るなり怒鳴った。
「どうしたんだ? 何があった??」
「どうしたもこうしたもない!
さっき、アンドロメダの聖闘士が森へやって来たんだ。
ただ、連れていた女がニンフのような気がしたから、よもやこの国に伝わる水の精霊ニクシーではないかと思って確認しようとしたら、いきなり怒りだしたのだ」
シルフィードはカップに注いだコーヒーをクイーンの前に出す。
「ニンフ?? どんな確認をしたんだ」
「ニクシーは服の一部が濡れている。 だから袖口を見ようと触ろうとしたら、いきなり睨み付けたのだ。
アンドロメダは!」
「……」
「たしかにニクシーは巻き髪だといわれているが、一応パンドラ様のところに正体の分からない精霊を近づけるのは避けたい。
この私の判断に、なぜあれほど奴は怒るのだ」

話を聞いてシルフィードは、アンドロメダの聖闘士が怒る理由を何となく理解した。
普通、水の精霊は美人揃いというイメージがある。
それに間違われる女性というのは、きっと綺麗な容姿をしているのだろう。
そう考えたとき、シルフィードの脳裏にある事柄が思い出された。
(もしかして、カメレオン座の聖闘士か? 
いや、そんな都合のいい話はあり得ないよな……)
常に仮面をかぶって素顔を曝さない女性の聖闘士が実はとても綺麗な顔だちだったというのは、お見合い話が無くなった今になって発覚するのは何となく作為的なものを感じる。
シルフィードは確認をしたいようなしたくないような、複雑な気持ちになった。