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君の隣にいるために その1

 約束の地からカオルの待つ世界へ。
 鋼牙はガジャリの用意した光の道を移動する。
 しかし、もう少しで元の世界へ出られるというところで、彼は何かイヤな予感がした。
――警戒せよ!
 何か話が上手く運びすぎてる。相手は人間の常識など通用しない大魔導輪。素直に用意された道を使うこと自体、何かの罠ではなかろうか。
 いろいろと苦労を重ねてきた黄金騎士牙狼は、目の前の出口について疑いを持ち始める。
 ところが身体は外へ引っ張られる。
 思わず魔戒剣を赤鞘ごと、あるのかどうか分からない光の壁に突き刺した。
 すると身体の動きがガクンと止まった。


『どうしたんだ、鋼牙?』
 相棒の行動に魔導輪ザルバは何事かと驚く。
「いやな予感がする」
『ハァ?』
「ガジャリ、この先の世界はギャノンとの戦いの何年後なんだ」
 時空を飛び越えているのである。時間の流れが違うことを考えてしまう。
 何しろザルバと移動中に離れただけで、約束の地ではかなりの年数が経過していたのだから。
 鋼牙が返事を待っていると、背後で巨大な存在の気配を感じた。
『牙狼……、黄金騎士よ。なにゆえ立ち止まる』
「ガジャリ、この出口は俺が約束の地へ旅立ったときから、向こうの時間でどれくらい立っている」
『……安全な道ゆえ、60年ほど経過している』
 この返事に鋼牙は赤鞘から魔戒剣を抜きそうになる。
「もっと短くならないのか」
『太いロープを結ぶには、それなりの長さが必要になる』
 太いロープは安全な道の比喩なのだろうが、この場合は細い紐、危険でもそんなに空白期間の長くない方が鋼牙には意味があった。
『60年じゃ、カオルも待ちくたびれて他の男と結婚しているだろうな』
 ザルバもあまりのことに溜息をつく。
『おい、鋼牙。さすがに60年も単身赴任じゃ、カオルが逃げ出しても文句は言えないぞ』
 すると鋼牙の眉間の皺が深くなる。
「そんなに待たせるつもりなない」
 ようやっと妻にした大事なカオル。彼女の許へはあの旅立ちの時から三日以内に戻りたいくらいなのだ。
「ガジャリ、もういちど尋ねる。もっと短くならないのか」
 彼は覚悟を決めて、赤鞘から魔戒剣を静かに抜く。
「嘆きの牙の一撃を喰らうか?」
 しばらく大魔導輪は沈黙していたが、その間に周囲に出口らしき穴が次々と現れた。
『好きなものを選べ。だたし、時空の果てに飛ばされたところで関知はしない』
 そして巨大な気配は煙のように消えてしまう。


「上等だ」
 鋼牙は再び剣を鞘に収めると、新しく現れた出口を順に見始める。
 どれも不安定さが現れていて、出口の大きさが安定していない。 『どうする、鋼牙』
 結局はどれかの出口を使わないと、ずっとこの世界に居続けることになってしまう。
 思い切って適当に選ぶか。少ない判断材料で慎重に吟味するか。
 鋼牙は何度も色々な出口を見比べる。

「?」
 そのうち、一つの出口の傍で何かが光った。
 近づいて拾い上げると、それはカオルの描いた黄金騎士そっくりのペンダントトップ。しかも鎖はちぎれており、片方が出口の中に続いている。
 ペンダントの鎖としてはあり得ない長さだが、鋼牙はそれを握った。
「これは、カオルのものだ」
『そうかぁ?』
 ザルバは出来すぎな展開に懐疑的だったが、この黄金騎士はカオルに関して頑固なのだ。そして非常に勘が鋭い。
「いくぞ」
『即決かよ!』
 そして次の瞬間、鋼牙たちは強い光に包まれる。


 目を瞑っていても、周囲が明るいことが分かるほどの光。
 それでも薄く目を開けると、愛しい女性の背中が見えた。
 何処かの階段(?)に腰掛けている。
「カオル!」
 鋼牙は手に持っている金色の鎖が、細いが確かに彼女と繋がっているのが見えた。