『どうしたんだ、鋼牙?』
相棒の行動に魔導輪ザルバは何事かと驚く。
「いやな予感がする」
『ハァ?』
「ガジャリ、この先の世界はギャノンとの戦いの何年後なんだ」
時空を飛び越えているのである。時間の流れが違うことを考えてしまう。
何しろザルバと移動中に離れただけで、約束の地ではかなりの年数が経過していたのだから。
鋼牙が返事を待っていると、背後で巨大な存在の気配を感じた。
『牙狼……、黄金騎士よ。なにゆえ立ち止まる』
「ガジャリ、この出口は俺が約束の地へ旅立ったときから、向こうの時間でどれくらい立っている」
『……安全な道ゆえ、60年ほど経過している』
この返事に鋼牙は赤鞘から魔戒剣を抜きそうになる。
「もっと短くならないのか」
『太いロープを結ぶには、それなりの長さが必要になる』
太いロープは安全な道の比喩なのだろうが、この場合は細い紐、危険でもそんなに空白期間の長くない方が鋼牙には意味があった。
『60年じゃ、カオルも待ちくたびれて他の男と結婚しているだろうな』
ザルバもあまりのことに溜息をつく。
『おい、鋼牙。さすがに60年も単身赴任じゃ、カオルが逃げ出しても文句は言えないぞ』
すると鋼牙の眉間の皺が深くなる。
「そんなに待たせるつもりなない」
ようやっと妻にした大事なカオル。彼女の許へはあの旅立ちの時から三日以内に戻りたいくらいなのだ。
「ガジャリ、もういちど尋ねる。もっと短くならないのか」
彼は覚悟を決めて、赤鞘から魔戒剣を静かに抜く。
「嘆きの牙の一撃を喰らうか?」
しばらく大魔導輪は沈黙していたが、その間に周囲に出口らしき穴が次々と現れた。
『好きなものを選べ。だたし、時空の果てに飛ばされたところで関知はしない』
そして巨大な気配は煙のように消えてしまう。
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