――鋼牙、カオルを閑岱に連れてこれないか?
幼馴染みの邪美の言葉に、鋼牙は何故と問う。
カオルを魔戒法師の里に連れていくというのは、何か裏があるのではないか。
そんな気がかなりするのだ。
――我雷法師が会いたがっているんだよ。上手くいけば、カオルの後見役をやって貰える。
カオルの後見役。それを魔戒法師の長である我雷法師にお願いできれば、カオルは魔戒法師たちに味方してもらえる。
非常にありがたい提案だが、何となく邪美の表情を見ていると、やっぱり裏がありそうな気がしてならない。
あまり疑いたくはないのだが……。
それでも我雷法師は、今は亡き母の師匠である。一度は紹介をするべきだろう。
邪美と烈花がいるのなら、少なくともカオルが孤立することはないはずだから。
では、いつ連れて行くのかとなると、これはもうカオルの都合を聞かないとならない。
『こういうときは美味しいものでも食べさせて、それとなく聞いてみろ』
ザルバのアドバイスに鋼牙も頷く。
カオルは今、アトリエの方にいて彼の傍にはいない。鋼牙も冴島家ゆかりのホテルで寝起きしている。
一応、建設中の冴島邸が完成したら、一緒に暮らすということになっていた。
ということで、ゴンザに美味しいレストランについて尋ねたら、「カオルさま、いえ奥さまとお食事ですか!」と執事は喜び勇んで有名なレストランに予約を入れにいく。
ところが数分後、彼が慌てて戻ってきた。
「鋼牙さま! 奥さまが、カオルさまが大変です」
その言葉を聞くやいなや、鋼牙はカオルのいるアトリエに向かった。
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