「だから私、鋼牙に言ったのよ。どうしてお土産として連れてきてくれなかったのって」
鋼牙の帰りを待つ間、居間でカオルは『動かずの号竜』について初めて夫から聞かされたときのことをレオに話した。
本当ならばレオもそのまま納品したかったのだが、さすがに普通の号竜よりは大きい。
ということで、運搬に頭を悩ませるよりも一度分解して冴島邸で組み立てた方が良いと言う判断が下されたのである。
『動かずの号竜』については、何度も分解と組立を繰り返したので、彼は慣れていた。そして荷物は既に全て運ばれており、あとは冴島家当主である鋼牙の前で完成させればいいのだ。
これは鋼牙に『動かずの号竜』の弱点を教えるという意味がある。万が一にもカオルたちに害を成すものであったとき、一撃で事が済むように。
「う〜、んま」
いつの間にかソファーに座っているレオの足に、雷牙が掴まっていた。最近、片言でも喋るようになっていて、ゴンザなどは「じ〜じ」と言われたとき大泣きしたらしい。
「雷牙くん、お父さんが戻ってきてから組み立てますよ」
レオの言葉に雷牙がにこにこと笑う。
「レオくん、雷牙もね、すごく楽しみにしているのよ。荷物が置かれたときから、外へ出ると一緒に見に行くの」
レオは雷牙を抱き上げる。
(ここなら大事にしてもらえるかもしれない)
そう思うと心が温かくなった。
ある意味『動かずの号竜』は、工房にて新しい号竜開発の助手のような存在だった。
だが、悪意の存在がなくても、それにかかりっきりになれないのも事実。工房内で埃を被るよりも、この家の人に可愛がられた方がよっぽどいい。
(願わくば、あれが良き存在でありますように……)
レオはそう祈った。
しばらくして鋼牙が仕事先から戻ってくる。
いよいよ外で組立が始まった。
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