INDEX
 
目次
 


五ツ色の絵物語 後日談3 その2

 翌日の夕方、一台の車が冴島邸の玄関先に止まる。
「雷牙、鋼牙!」
 冴島家当主の妻であり雷牙の母親でもある冴島カオルが、展示会場から戻ってきたのである。その後ろから一人の少女が車から降りる。
 少女の名は山刀鈴。閑岱にいる白夜騎士・山刀翼の妹である。
 一応、鋼牙は町にいるカオルにも危険がないよう、カオルの展示会の招待券を閑岱に送っていたのだ。
 閑岱では次期黄金騎士の母親でもあるカオルの展示会のチケットが来たと言うことで山刀鈴を寄越したのである。鋼牙の思惑を薄々察しながら。
 そしてカオルが居間に入ると、ソファーには疲れたようにぐったりしているレオと、その膝ですやすやと眠っている雷牙がいた。

「レオくん……?」
「あっ、カオルさん」
 立ち上がろうとする彼をカオルは制した。せっかく息子が眠っているのだ。起こすのは忍びない。
「立たないで。雷牙が起きちゃう」
「すみません……」
 レオは軽く頭を下げる。
 カオルの後ろから現れた鈴がレオに挨拶をした。
「鋼牙さんなら、元老院に呼ばれたので今は出かけています」
 レオに淀み無く説明されて、カオルは頷く。
「もしかして留守番に呼ばれたの?」
「そうみたいです」
 彼は曖昧に笑う。昨夜の出来事など、カオルには口が裂けても言えない。


 実際の戦いは暗闇を利用されて、一時間くらい続いたのだから。それでも目を覚まさなかった雷牙もすごいとしか言いようがないが……。
『剣の出す音が子守歌にでも聞こえるのかねぇ』
 エルバの言葉に、レオは思わず顔をしかめた。

 そしてホラーたちを全て倒した後、零は「東の神官にバルチャスはなかったって報告するぞ」といって、東の管轄に夜明けとともに帰ってしまった。
 鋼牙も何事もなかったかのように、雷牙の世話をしていたりといつもの生活に戻る。
 だが、元老院から指令がきているということで、レオに幾つか雷牙の世話に関するメモを渡すと仕事に行ってしまったのである。
 本当にタフとしか言いようがない。


 さて、カオルはというと眠ってる雷牙を眺めるだけで動かそうとしない。
 鈴も「かわいい〜」と言って、レオと雷牙のことを見ている。
「あの……」
 彼は何かまずいことになりそうな気がしてきた。そしてそれは正解となる。カオルがレオと雷牙をモデルにスケッチを始めてしまったのだ。
「カオルさん! 何を描き始めているのですか」
「ちょっとだけ、ねっ、いいでしょ。イケメンお兄さんと赤ん坊の図って貴重なのよ!」
「貴重って!」
 鈴はというと、いつの間にかゴンザの用意したプリンを食べている。とても幸せそうに……。
『イケメンとは嬉しいことを言ってもらえたねぇ』
「そうじゃなくて!」
 この場合のエルバは味方ではない! とレオは悟る。
 彼はそのあと一時間ほど、身動きが取れなかった。


 それから二日後、元老院で再びレオは鋼牙と顔を合わせた。
「雷牙くん、大丈夫でしたか?」
 夜、外へ出したのだ。風邪などひかせたら申し訳が立たない。
 すると鋼牙は「まずいことになった……」と告げる。
「ど、どうしたのですか!」
 やはり体調を崩したのだろうかとレオが驚くと、ザルバが笑った。
『雷牙のやつ、抱っこされたときカオルとゴンザでは背の高さにご不満らしい。大泣きしているのさ』
 ゆえに、カオルが「レオくんに抱っこされたら、そりゃぁ視線が高いよねぇ。お父さんも背が高いもんね〜」と、ふてくされているとのこと。ゴンザも自分が家から離れなければと、悲壮感を漂わせているらしい。
 実際にそれが理由なのかは、大人側にはわからないが……。
(まさか、あやすときに術を使ったのがまずかったかな)
 雷牙が喜んでくれるので、淡い光で小さな生き物を形づくって動かしたりしいていたのだ。だから興奮した雷牙は、レオの膝の上で眠ってしまったのである。
 このことは、冴島家の人々には絶対に言えない。言えばカオルも見たいと言い出すのに決まっている。

 幼子が懐いてくれるのは嬉しいが、なんだかやっぱり冴島の家は鬼門かもしれないと思うレオだった。