○ 子守歌 編
レオは元老院の廊下で、鋼牙から指定した日に北の屋敷に来てくれと言われる。
このとき彼は、かなりイヤな予感がした。
これまでも冴島夫妻に跡取り息子が生まれてから、何度か屋敷に伺ったことがある。
だが、どうしても雷牙のふにゃふにゃ加減が怖くて長く抱っこなどが出来ない。
「そんなことじゃ、良いパパに慣れないぞ」
と、カオルはからかうのだが、このときのレオは「雷牙くんのパパは、今まさに僕を睨みつけている貴女の旦那さんです」と心の中で叫んでいた。
ただでさえ、布道家はカオルを諦めていないという根も葉もない噂がたまに聞こえてくる。同時に涼邑零が冴島鋼牙の奥方と仲がいいという話も聞くので、この差はなんだろうかと考えないこともない。これについて魔導輪エルバは、『人気者になったねぇ』という見当違いの感想を言ってくれた。
ハッキリ言って、未だにレオはエルバに勝てない。ということで、ある意味レオにとって冴島家は鬼門に近いものになりつつあった。
しかし、ここ最近、彼は仕事と新しい魔導具の開発に忙殺されて、冴島邸への訪問はご無沙汰にしている。
さすがに面と向かっての招待を断る勇気はない。
「わかりました。必ず伺います」
「では、待っている」
この会話の後、鋼牙はあることを彼に告げた。その日は奥方と執事は不在だというのだ。
レオの前にいるのは、数々の凶悪なホラーを倒し、そして2年くらい前には大魔導輪ガジャリとの契約により『約束の地』へ旅立って後に帰還したという“伝説の魔戒騎士”。
(生きて帰れるのだろうか……)
立ち去る黄金騎士の背を見送りつつ、彼は失礼極まりないことを考えてしまった。
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