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後日談 冥界編

エウリュディケーが聖域に居るという情報は、直ぐさまハインシュタイン城に報告された。
パンドラはとても喜んで、すぐにでも会いたいとラダマンティスに言う。
しかし、彼としてはオルフェとの確執を考えると、まだ時期が早すぎるような気がした。

「いずれ良いときを考えて、会える様にします。
今は文通くらいに抑えてください」
彼は半分くらいは勢いに任せた説得をした。
するとパンドラは
「それもそうだな」
と言って、いきなり机に向かうと便箋を出したのである。
「パンドラ様?」
「大丈夫だ。最初はアンドロメダ宛にしておく」
「いえ、そうではなくて……」
「手紙は直接、聖域に持っていって貰うしかないな。
あそこは一応、隔離された場所だ。
カメレオン座の聖闘士を近くで見ても、決して想いを寄せてはならぬと部下たちに言っておけ」
それはどんなギャンブルですかと、ワイバーンの冥闘士は言いたくなった。
しかし、彼は女主人の命令には逆らえなかった。


同じ頃、裁きの館ではミーノスは死者の名簿をアイアコスの前に出した。
「どうしたんだ?」
アイアコスは名簿を指さしただけで、手には取らない。
「ルネがユリティースの扱いに、頭を悩ませていましてね。
女神ヘカテの側近であると書くべきかと、聞くのですよ」
死者に関わる名簿は、正確さを要求する。
しかし、彼女に関しては一介の冥闘士には手に余るのである。
「ミーノスはどう思う」
「ルネには放っておけと言ったのですけどね」
「それが正解だ。
女神ヘカテの側近がユリティースである事を証明する必要はない。
そしてエウリュディケーの名は死者の名簿に書いてはいけないものだ」
既に彼女は、女神ヘカテの管轄なのである。
むしろ、ユリティースはあの聖戦で行方不明くらいにしておかなくてはならない。
「ところで、私がこっちで仕事をしているときに、地上で楽しい話があったそうですね」
突然、ミーノスが話題を変えた。
本題はこっちかと、彼は考える。
「楽しい? あぁ、見合い話か」
「全く、直ぐに終わってしまうなんて、もったいない話です」
この時アイアコスは、目の前にいる仲間が何の意図を持って言ったのか尋ねたくなった。
「見合いをしたかったのか?」
まさかと思いつつ、お約束のようにツッコミを入れてみる。
すると、ミーノスは曖昧な笑みを浮かべて、
「面白そうだと思っただけですよ」
と言った。
そこへミーノスの部下である冥闘士が部屋に入ってきたので、この会話はここで終了となる。

(……誰に気があるのやら)
しかし、他人の恋愛事情に興味のないアイアコスは、敢えてそれを聞くことはしない。
(そういえば、牡牛座に麦の粒がどうなったか言っておかないとならないな)
どうせ近いうちに、聖域に行くことになっている。
彼は、再び面白い事が起こりそうな気がした。
それは予感ではなく確信に近かった。


〜了〜