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ある日の五老峰。 「春麗。いますか?」 ムウの声に、小さな女の子が慌てた様子で奥の部屋から出てきた。 「ムウしゃま!」 彼女はムウにしがみつく。 さっきまで泣いていたらしく、目を赤く泣きはらしていた。 「春麗。老師から聞きましたよ」 その言葉に春麗は顔を真っ赤にして再び泣き始める。 いつものように用があって五老峰へ来てみれば、原因が自分にあるという騒ぎの勃発。 原因は、春麗がムウの所に行きたいと言った事だった。 彼女は泣きながら家に戻ったと、何やら傷ついて打ちひしがれている童虎を放っておいて、ムウは春麗の様子を見に来た。 「だって、ムウしゃまのお家に行きたかったんだもの……」 しかし童虎はその約束すらしてくれず、春麗が癇癪を起した。 「私の家は、たいして面白い物は無いですよ」 彼は言葉を続けようとしたが、 (亡霊たちがうじゃうじゃいて、入り口が無いだけです) とは、さすがに言えなかった。 「そうなの?」 「そうです。 もしかして春麗は私の家を楽しい場所だと思っていましたか?」 すると春麗は首を縦に振った。 話を聞いてみると彼女は、 『岩だらけの土地にある細い道をまっすぐに進むと、面白い人たちが道の脇で踊りを踊っていて、更にその先を進むとある“玄関が隠されている不思議な家”にムウは住んでいる』 と、思っていたのである。 微妙に外れではないが……。 (どんな説明をしたのですか! 老師!!!) 結局、春麗が大きくなってから一度は招待するという事で、この場の話は終わりとなった。 ちなみに童虎が何故打ちひしがれていたのかというと、ムウの所へ行きたいという言葉を、 『大きくなったらムウの所へ嫁ぎたい』 と、勝手に変換してしまったからである。 しばらくして違うと理解しながらも、思考を止める事は出来なかったらしい。 (溺愛にも程がある!) ムウは大きくため息をついた。 「ところでムウしゃま。今日のご用は?」 春麗に服を引っ張られて、彼はようやく自分の用事を思い出した。 「今日は天気がいいから、麓の村へ買い物に行きますよ」 彼の言葉に、春麗は可愛らしい歓声をあげた。 |
─ 了 ─
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