萌え話W・51 やる気満々です

 「とにかく、報告しなさい」

 十二の黄金宮で起こった異常事態。  女神アテナが久々に、女神の聖衣を纏い武装して黄金聖闘士達の前に立つ。
 この威圧感に、黄金聖闘士たちの背中には冷たいものが流れていた。
 十二宮前の広場には他にも大勢の白銀や青銅の聖闘士達もいる。

 しかし、分かっているのは双児宮でスケルトンが現れ、それをサガとアイオロスあたりが排除したと思ったら、いきなり黄金宮に閉じ込められたということ。
 彼らは脱出のために力を使うのがやっとだったのである。

 それを聞いて沙織はしばらく考え込む。
 大抵のことならば黄金聖闘士たちが負けるということは無いが、何らかの理由で敵対者が長期戦を前提に行動をしていた場合、行方の分からない黄金聖闘士たちを足止めすることは可能かもしれない。
 戦力の分散である。

 このとき、十二宮前の広場にミーノスが現れた。
 グリフォンの冥衣を纏っている。
「女神アテナ、冥界で少々問題が起こりました」
 彼はその手に信書を持っていた。



萌え話W・52 知識

 遥か昔、古代イスラエルにソロモンという王あり。
 彼が結婚したとき、神に盛大な捧げ物をする。
 神は彼の夢枕に立ち「願い事をかなえよう」と言った。
 するとソロモンは知恵を求めた。
 神はこの返事を喜び、多くのものを与えることを約束した。

 ☆☆☆

「ところが自称ソロモンの場合は、神が与えてくれるわけではありません」
 ミーノスは冥界の状況を伝える。
 信書というのはパンドラからの手紙で、ミーノスの話を聞いてほしいとだけ書かれていた。
「レヴィアタンに食われていた魂を裁いているとき、その人間が己の意識を媒体に魔獣というか悪魔を呼び出したのです」
 冥界の神が既に支配している場所なので、悪魔といえども暴れられるわけではない。
 しかし、不完全に不完全を重ねた力の発動というのは、冥闘士たちもすぐに制御できるものではなかった。
「冥界の力を安定させようとしたのですが、こちらの巨蟹宮に繋がっている道を相手に利用されました」

 これにより、悪魔(?)たちは十二の黄金宮に逃げ込んだのである。
 今回はレヴィアタン戦があり、女神メデューサの力が発動したのだ。
 空間そのものが不安定だったのが悪い方に作用したらしい。

「たぶん、悪魔たちは各黄金宮のどこかに隠れています」
 その悪しき者たちを捕らえる道具を、今、巨人族の鍛冶屋が作ってくれているとのこと。
 ただ、問題はその道具が人を選ぶかもしれないと言うことだった。
 強力な道具というのは、そういう反応を示すことが無いわけではない。

 この話に沙織も聖闘士たちも、一般人を選ばないでほしいと思った。 



萌え話W・53 女神アテナは工芸も司っています

 貴鬼は聖域の一角に特別に用意された作業所に来ていた。
 そこには映画用にデザインされた、作りかけの鎧が机の上に置かれていた。
(これの制作、延期かなぁ〜)
 今や十二宮が大変なことになっている。当然、映画がらみのことは後回しになるだろう。
 少しガッカリした気持ちで作業所の中を掃除する。
(ムウ様もシオン様も、忙しくなるだろうなぁ)
 そんなことを考えていると、作業所の入り口に誰かが立っていた。

「えっ?」

 貴鬼はそこに立っている者を見て言葉を失う。
 大きさは人間の大人だし、容姿も人間なのだが、その印象は明らかに人以外の存在に見えた。

――コレハ良イ器ダ。

 巨人族の鍛冶屋が、聖域に現れたのである。


 この異様な小宇宙は聖闘士達にもすぐに知れ渡った。
 作業所の周辺に大勢の聖闘士達が集まる。
「おい、近づけないぞ」
 ミロの言葉にムウは頷いた。
 作業所の中には貴鬼がいるのは分かったのだが、巨人が何をしているのかが分からない。様子を小宇宙やテレパシーを使って探ろうとするのだが、どうにも上手くいかないのだ。
 とにかく巨大な力のようなものが作業場を取り巻いている。
 だが、しばらくして巨人の気配は薄くなってゆく。

「ちょっと話をしてきましょう」

 沙織と共に様子を見に来たミーノスが、ひとりで作業場に近づく。
 彼は平然とした足どりで、そのままドアを開けた。

「人見知り全開で作業をしているようですね」

 すると中にいた巨人族の鍛冶屋は、なにやらモジモジした様子で『一ツ目、出来タ』と言って姿を消してしまう。
 あとに残されたのは床に座り込んでいた貴鬼のみ。
 しかし、その瞳は興奮でキラキラしていた。

 彼は巨人族の鍛冶屋の仕事を目の前で見て、感動していたのである。

 机の上には美しい装飾が施された女性用の鎧が一体。
(この鎧を纏える女性が、最初の対悪魔用狩人ということか……)
 使い方はきっと、装着できた女性にだけ知らされるシステムなのだろう。まずはシンデレラのように、この鎧を身に付けられる女性を探さないとならない。
 ふとミーノスは手を伸ばしてみたが、案の定、拒絶されてしまう。

 このとき、作業所に近づけるようになった黄金聖闘士達がミーノスに説明を求める。その隣では、沙織とムウが貴鬼に巨人族の鍛冶屋の仕事ぶりを、事細かに説明してもらっていた。
 そしてとても羨ましがっていた。  


萌え話W・54 お土産?贈り物??

――再び夢を見た。
 暗闇で今度は女性が立っている。

 女神アテナに似ている気がするが、ちゃんと顔が見れたというわけではない。 ただ、何となく似ている気がする。
 世界が真っ暗になった。


 ジュネは目を覚ます。
 部屋は真っ暗。
 まだ夜明け前なのか。
 そんなことを考えていたら、部屋のドアが開いた。
 瞬がランタンを持って入ってきたのである。
「ジュネさん! 大丈夫??」
 目を覚ました恋人に彼は駆け寄る。
「瞬……、もうすぐ夜明けなの?」
「違うよ。ジュネさんは丸一日、眠っていたんだよ」
 夜はこれからだと言う。
「気分はどう?」
 そう言って彼がジュネの頬に触れようとしたとき、チリチリとした空気の抵抗を感じた。
「?」
 さらに手を伸ばそうとしたとき、光の刃のようなものが瞬の手を掠る。
 彼は手を引っ込めた。
 それと同時にジュネはうつ伏せになり、口元を手で抑える。
「ジュネさん……?」
「な、なんだか、気持ちわるい……。体中で何かが蠢いているような……」
 瞬は慌てて外に出る。
 聖域にも医術の心得のある神官がいないわけではない。
 しかし、レヴィアタン戦の後遺症の場合、必要なのは医者ではなく呪術に長けた人間である。
 とにかく彼は人を呼んだ。

 そしてジュネを見た沙織とユリティース、神官たちの見解が一致する。
 ジュネの体に女神メデューサの退魔の力が残っていたのである。
 それがジュネの小宇宙を乱して、彼女の体を害していたのだ。
 ただ、この力はある意味、究極の力とも言える。
 ゆえに、十二宮の異変を抱える聖域としては消すに消せなかった。  


萌え話W・55 どうすることも出来ません

 ジュネの体に究極の力が宿っている。
 この事態に沙織は、彼女の休んでいる部屋にアイギスを持ち込ませた。アイギスの方に力が移らないかと思ったからだ。
 実際はそういう都合のいいことは起きず、ただ、なんとなくジュネは気の流れの様なものを感じて、体が少しだけ楽になっただけ。
 ジュネの体調が少し安定しているので、静かにさせてあげるべく瞬たちは別の部屋に移動する。


「とにかく、むやみにジュネから力を排除しようとする方が危険です」
 では、このままジュネが弱っていくのを見るしかないのか。
 瞬の問いに沙織は眉を顰める。ユリティースや神官たちも困ったような顔になった。
「?」
 その理由を口にしてくれたのはユリティースだった。

「その……、今のジュネさんは女神の力を得たけど、自分では使えないという状態です。ですから別の人がジュネさんの体から力を移動させてくれればいいのですが……」
 ただ、そうなると相手はジュネに触ることになる。
 彼女が抱えている力の容量によっては、一人や二人じゃ済まないかもしれない。
 それではジュネの精神の方に負担がかかりすぎた。

「とにかく、この役目が出来そうな人に心当たりがあります」
 沙織の言葉に、瞬は不安を覚えた。  


目次 / 萌え話W・56〜60に続く