萌え話V・16 真夜中の話 その3

 絵梨衣はこの説明を大まかに理解する。
 彼女たちは命懸けでこの世界を守っているのだ。
 そこまでの意思力を持つ人たちならば、自分の願いを聞いてくれるかもしれない。

「あの……、皆さんにお願いがあります」
 何度も考えたこと。それを口にするのはやはり心が落ち着かない。
 それでも誰かには言わなくてはならない言葉だった。
「もし私が災いの原因になったら……」
 緊張の極致で紡ぐ言葉は、終わらないうちに返事を言われてしまう。
「助けに行くよ」
 シャイナの言葉に絵梨衣はキョトンとする。
「えっ?」
「だから助けに行く。絵梨衣ちゃんも絶対に早まった真似はしないこと。約束だよ」
 意外な展開に絵梨衣は思考がまとまらない。三人の女性聖闘士達の顔を順に見た。
 すると魔鈴が言葉を続けた。
「さっきも言ったように、聖域は裏切りなどを利用している部分がある。だから誰かが絵梨衣ちゃんに酷いことを言うかもしれないし、利用しようとするかもしれない。でも、貴女を救うために命を懸ける聖闘士もいる」
「……」
「まぁ、どちらかというと面倒な状態の余波でそちらに迷惑をかけるほうが多いだろうけど、とにかく女神やキグナスを最後まで信じて欲しい。聖域は絶対に貴女を守る」
 それは力強い言葉だった。



萌え話V・17 お兄さんたちは?
 さて、いきなり休暇を貰うことになった黄金聖闘士たちはというと……。
「聖域にいてはいけないけど、明日の午前中に一度聖衣を取りに戻らなければならない」
という条件付きに困惑する者もいれば、速攻で遊びに行く者など様々だった。
「アイオリアは日本か……」
 後輩である星矢のお守りとして行く弟を、アイオロスは羨ましいと思った。
 彼としては休暇ならば旅に出たいところだが、そうなると一カ月くらいは連絡無しでやりたい。
 しかし、そんな許可が下りるわけがない。
 ならば条件付きの小旅行と考えるのだが、そうなるとワクワクするような目的が欲しい。
 修行地が聖域ゆえ、修行地に戻るという手も使えなかった。
「そうだ! 冒険をしよう」
 彼は思い立ったが吉日とばかりに出かけた。


萌え話V・18 アイオロスの冒険 1
 アイオロスが荷物を持たずに普段着のままでやって来たところは『デスクィーン島』
 少し前にあった闘いの後、この島には少しずつ緑が戻ろうとしていた。
 ただ、大きな闘いの後なので、はっきりいって何が起こるのか分からない。
 それゆえ聖域では『これから時間をかけて調査をしよう』という位置づけだった。

「またどこかに異空間への道が繋がっていないだろうか」
 射手座の黄金聖闘士は物騒なことを思いつつ、島を探検する。
 そのうち彼は、小高い山に大きな亀裂が走っているのを見つけた。
 どうも最近出来たものらしい。しかも怪しい気配を感じる。
「よし! 入ろう」
 彼は楽しそうに奥へと進んだ。

萌え話V・19 日本では?
 日本へ来たアイオリアはというと、荷物持ちとして業務用スーパーマーケットにいた。
 その隣には美穂が調味料をカゴに入れている。
 アイオリアはてきぱきと食材を選んでいる少女を見ながら、置いてきぼりをくらった後輩の不穏な小宇宙を思い出して苦笑いをしてしまった。
「アイオリアさん、重くないですか?」
「いいや、大丈夫だ。それより星矢にあとで怒られるな」
 彼は今、学園で星矢と一緒に夕飯をご馳走になったので、お礼として彼は美穂の買い物の手伝いをしている。
 絵梨衣がいないので、星矢が子供たちの世話をしなくてはいけないからだ。
 ところが美穂はきょとんとしている。
「星矢ちゃんが?」
 何故?という顔をされて、アイオリアは言葉につまってしまう。
(もしかして星矢は意識されていない?)
 せっかく日本へ戻ったというのにGFが他の男と買い物に出てしまったのだ、不機嫌にならないわけがない。
 しかし、彼女は特に気にしていなさそう。
(なにやっているんだ、星矢は!)
 自分のことは棚上げして、後輩の恋に活を入れたくなったアイオリアだった。

萌え話V・20 うっかり?
 後輩のヘタレっ振りに憤るアイオリア。
 美穂はそんな彼を不思議そうに見ていた。
「星矢ちゃん、アイオリアさんのこと尊敬しているって言ってました」
 学園に帰る道すがら、美穂に言われてアイオリアは何事かと驚く。
「星矢が?」
「本当は買い物には一人で行こうと思っていたんです。アイオリアさんを働かせたら悪いと思って……」
 その時、星矢が美穂を説得したのである。
 夜道は危ないから明日に出来ないのか。出来ないならアイオリアに頼んでくる。
 その時の様子を美穂は嬉しそうに話し始めた。

 一方、星の子学園では星矢は大きな溜息をついていた。
「星矢兄ちゃん、どうしたの?」
 子供たちが興味深そうに彼の顔を覗き込む。
「なんでもない。ほら、風呂に入れよ」
 彼がそういうと、子供たちはキャッキャと騒ぎながら風呂場へと向かった。
(美穂ちゃんたち、遅いなぁ〜)
 もうそろそろ帰って来ても良いはずである。
(まさか、アイオリアとデート? そんな訳ないか。あのアイオリアがそんなことをするわけがない!)
 そう考えつつ、別のことも考えてしまう。
(でも美穂ちゃん、可愛いし……)
 実はアイオリアが『東洋系の女の子好き』だったりしたら最悪である。
(いや、大丈夫だ)
 次の瞬間、彼は思ったことを口にしていた。
「アイオリアは魔鈴さんの前であんなにもヘタレなんだ。その魔鈴さんを裏切って他の女の子を口説くような器用な事は出来ない!!」
「誰がヘタレだ!!!!」
 口は災いの元。阿鼻叫喚劇場が幕を開けようとしていた。

目次 / 萌え話V・21〜25へ続く