メディアがその薔薇を見る切っ掛けとなったのは、とある島で発生した負の意識だった。
暗闇で感じた強烈な怒りと憎しみ。
彼女は地上へ現れる。
そこはとある島。草木の少ない荒れた大地だった。
目の前に倒れているのは鎧を纏った青年。
噂に聞く聖闘士だと気付いた。
青年の胸には真っ赤な薔薇が刺さっている。
人の血を吸ったのか、その色の鮮やかさにメディアは目を奪われた。
思わず手を伸ばしたとき、その腕を倒れている青年に掴まれる。
「お前は……女?」
目を開けていても青年にはメディアの姿が見えなくなっているらしい。
彼女は黙った。
「早く……逃げろ、黄金聖闘士が……」
青年は息も絶え絶えだが、掴まれた手から青年の記憶がメディアに雪崩込んだ。
聖域で発生した内乱。
この島で聖闘士を育てていた者が反逆の濡れ衣を着せられたらしい。
青年は師匠と共に身の潔白を叫んだが、黄金聖闘士は無慈悲にも彼らに攻撃を仕掛けた。
この理不尽な仕打ちに彼の中で怒りと憎しみが膨れ上がる。
『復讐を……』
青年は胸の薔薇を引き抜くとメディアの前に差し出す。
その行動にどんな意味があるのか彼女には分からない。
だが、真紅の薔薇の美しさに抗う事は出来なかった。
メディアは薔薇を手にとる。
そのとき魚座の黄金聖闘士の姿が見えた。
「この薔薇のお礼に、私が聖域を滅ぼしましょう」
彼女は嬉しそうに微笑む。
イアソンはロクでなしだったが、この青年は誠実そうだ。
無慈悲に人を殺める聖闘士など、どうせ神々に逆らう愚か者だろう。
彼女は自分の存在理由を得て、楽しかった。
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