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ある日の五老峰

 畑仕事をしていて、ちょっと目の離した隙に一人息子である龍峰の姿が消えた。
 紫龍と春麗は真っ青になりながら周辺を探し回る。
 するとしばらくして川の方から、龍峰の声が聞こえてきた。
 川の中に入られたら非常に危険なので、紫龍が青ざめながら駆けつけると……。

 そこにいたのは一人の老人と幼い龍峰だった。
 川の水の一部が彫刻のように色々な形に変化している。それを見て龍峰が笑っていたのだ。
「老師……」
 紫龍は懐かしい人の姿を見て茫然としてしまう。
 老人は紫龍の方を向いた。
「紫龍、子供から目を離してはいかんぞ」
「は、はい」
「それにしても龍峰はいい子じゃ」
 自分が褒められているとも知らず、龍峰は童虎に水の彫刻をもっと見たいとねだる。すると童虎は龍峰の手を握った。
「龍峰や、おぬしは水の気が強いようじゃ。聖闘士も新しい時代が来たのかもしれん」
「?」
「その特性はおぬしに力を与えると共に、どうすることも出来ない因果をも与えてしまうじゃろう。調和を持ち、自分の力を信じるのじゃ。さすれば自ずと進むべき道に女神は光を与えてくれる」
 このとき川に春麗がやってきた。
「老師!」
 母親の大声に、龍峰はビックリして泣きだしてしまう。
「さらばじゃ」
 春麗が駆け寄る前に童虎の姿は光の中へと消えてしまう。
 彼女は自分の方へ手を伸ばす息子を抱き上げた。

「老師、龍峰の子守をしたくなったらいつでも来てください」
 紫龍の言葉に風が懐かしい声で笑ったような気がした。