白羊宮の一角にある鍛冶場のテーブルに、シオンは幾つかの宝石を並べる。 その種類も色も様々で、光沢を放つものもあれば、くすんだガラス玉のようなものもあった。 「シオン様、何をしているのですか?」 所用から戻ったムウと貴鬼は、テーブルに近づくと興味深げに石たちを見た。 「二人に尋ねたい」 シオンは水晶のような石をつまむと、じっと見つめながら言葉を続ける。 「これらの石に聖衣を封じるのは出来ると思うか?」 その問いに二人はとても驚く。 「そんな小さな石に聖衣を封じるというのは、どういうことですか!」 ムウは思わず大声を出してしまう。 「聖衣そのものにも力があるのですよ。それを強制的に小さくすれば、反動で聖衣を壊してしまうかもしれません。なんの必要があるのですか!」 するとシオンはムウの方に視線を向けた。 「……これから先、必要になるかもしれないからだ」 「えっ?」 シオンの手の中で水晶はキラキラ光っていた。 「我々は今までパンドラボックスで聖衣を保管していた。それはパンドラボックスが頑丈であるということと、聖衣は攻撃されても滅多なことでは壊れることはないと思っていたからだ」 「たしかに聖闘士たちも聖衣の耐久に関して過信しているところがありますね」 ペガサスの聖衣など星矢一人の代で5回も治した。連戦だったと言われればそれまでだが、ペガサスの聖衣そのものが消滅しなかったのは奇跡かもしれない。 「今まで聖衣が無事だったのは、聖衣が敵にとって攻撃対象ではなく利用価値がある武具のようなものだったからとも言える」 「……」 「あとは聖域の者たちが守る対象にしていたからだろう」 「そうですね。聖衣は聖域の宝ですから」 現・牡羊座の黄金聖闘士は、先代が何を言おうとしているのか察した。 「しかし、敵が聖域に潜み、聖衣を破壊するという行為を全うしようとしたとき、今の状態ではパンドラボックスを安全なところへ持ち運ぶなど一般人には至難の業だ」 所有者である聖闘士がいれば良いが、中には所有者のいない聖衣もある。それを運ぶには聖闘士か体力のある人間か、貴鬼のような重さを自分で調整できる能力者が必要となる。 平時ならなんでもないことでも、闘いが起こり緊急事態ともなれば人を選ぶ暇などない。場合によっては女官の誰かが命懸けで追手から聖衣を何処かへ運び隠す事態もありうるのだ。 ムウはテーブルの上にある赤い石を手にとった。 「器に関しては石の硬度を強制的に上げて、破壊される確率を減らしましょう」 シオンは弟子の提案に頷く。 「聖衣の小宇宙に反応する特性を生かせば、主たる聖闘士以外では装着が不可能ということも出来るだろう」 たとえ盗まれることがあろうとも、壊されなければ聖闘士と聖衣は互いに呼び合う。その絆を信じるしかない。 「たとえ何年かかろうとも、技術開発を成し遂げなくてはならない」 シオンとムウは貴鬼の方を見た。 「オイラ?」 「我等で完成出来なかったときは、其方が引き継いでくれ」 女神アテナの為に……。 その言葉に貴鬼は「はい」と頷いたのだった。 |