「見事なものだな」
男は目を細めて、復活しつつあるいくつかの黄金宮をみた。
「お前がここに来るとは珍しいな」
ミケランジェロは相手を見ずに話しかける。
「学園長がいない今、私が動かなくてはならないからな」
聖闘士養成の学園であるパライストラの学園長代理は遠くの方を感慨深げに見る。
「ゴーレムたちはまだ、動けるのだな」
「あぁ、意外なことだ」
ミケランジェロの返事に学園長代理は驚きの表情をする。
「それがお前の実力ではないのか?」
しかし、ミケランジェロは彼の言葉を否定するかのように首を横に振る。
「今の段階なら実力と言えるだろうが、少しずつアプスの影響が少なくなっている。私の能力も使いものにならなくなるだろう」
「……」
「そうなれば、お払い箱だ」
この13年という間、闇の神のもたらした影響は絶大で、聖闘士たちの能力に属性というものが発生した。
それにより戦闘の仕方が劇的に変わったが、闇の神アプスが倒された今、その性質は少しずつ聖闘士たちの中から消えようとしている。
「我らの女神は魔法などとは縁遠い方だからな」
女神自身が何らかの術を使えたところで、聖闘士たちにも同じように使わせることが出来るわけではない。
女神アテナは技術を司っても魔術には関わってはいないのだ。
「まぁ、こちらとしては、それまでは小宇宙の使い方が上手くいかなかった方のだから、ゴーレムたちを作ることが出来て満足だ」
たぶん、ミケランジェロの能力は女神アテナの下ではなく別の存在の影響下の方が恐ろしい効果を発揮するのかもしれない。
学園長代理はそんなことを考えた。
「お前とは逆だ」
すると学園長代理は腕を組み、苦悩するかのような仕草をわざとらしくする。 「軍神マルスが地上に影響を持ち始めたとき、私は小宇宙の発動が上手くいかなかった。これから先、女神アテナのもとでは力を発揮できない生徒たちが出るだろう」
だからといって遠くない未来、再び何らかの邪神がこの地上に現れたとき、女神アテナの影響下でしか戦えない聖闘士しかいないというのは非常に危険な事態である。
先のハーデス率いる冥闘士たちの闘いでは、冥界に赴いた黄金聖闘士達がその力を十分に発揮できなかったという話が伝わっていた。
地上をギリギリのところで守れても、邪神を倒せないということはあってはならないのだ。
「……」
ミケランジェロは、古い友人が何を言いたいのかと訝しげな顔をする。
「ミケランジェロ、パライストラの非常勤講師をやってくれないか?」
彼にとって意外な言葉。
「断る」
ゆえに即答だった。
「私は人に教えるなど出来ない」
しかし、学園長代理はその返事を予測済みらしい。
がっかりしてなどいなかった。
「今、生徒たちは混乱している。世界が変化したからだ」
「……」
「変わらないと思い続けていたものが変わる。大人でも不安定になるのだ。子供にしっかりしろというのはむごい話だと思わないか」
学園長代理はミケランジェロの肩を叩いた。
「最初から承諾されるとは思ってはいない。ただ、世界は変わって当然という人間が学園内にいてもいいと思う」
また来るといって学園長代理は去っていった。
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