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61. 逃げ回る (本編・後日談)

隠れ里(聖域)の騒動が終わり再び世界中を旅する生活に戻ったジュリアンとソレントだったが、ソロ家の親戚にギリシャに居ることがあっさりとバレてしまった。
無視するのも無駄に敵を作ることなので、ジュリアンは挨拶くらいはしておこうと割り切ったのだが……。

「これは困ったことになった」
ジュリアンは親戚が自分を探していた本当の理由を聞き、思いっきり困惑をしていた。
よもや自分の知らないところで恐ろしい計画が着々と進められているとは、さすがは魑魅魍魎の多い一族だと言わざるを得ない。
「このままではソレントと会わせてもらえないな」
一人で勝手に逃げると、ソレントの方に一族のものが追手を向けるだろう。
それほどまでに、今回の計画ではジュリアンの存在が重要だった。
「何とか彼と連絡が取れれば良いのだが……」
多分、同じ屋敷に居るような気はするが、もしかすると先に町へ戻らされて居る可能性もある。
何にしても逃げなくてはと思ったとき、部屋のドアが静かに開いた。

「ジュリアン様」
そこに立っていたのは、今自分が気にかけている友人その人だった。
「ソレント!」
「何やら怪しい雲行きを感じたので、迎えに来ました」
「来てくれて助かったよ。 はやくここから逃げた方が良い」
世界中を旅することで修羅場慣れをしている二人が、警備のやや甘い屋敷を出るのは結構簡単な事だった。

ジュリアンやソレントが個人的に知っている民宿の主人は、二人の訪問を喜んでくれた。
そこでようやく二人は一息つく。
「いったい何があったのですか?」
ソレントの問いにジュリアンは苦笑いをした。
「見合いだよ」
「見合い?」
今度は何処のお嬢さんを相手に選んだのやらと、ソレントはソロ家の縁戚たちのバイタリティに感心してしまう。
「彼らはミス沙織もあきらめていないが、今度はドイツの名門ハインシュタイン家の姫君だそうだ。
向こうも親戚筋が乗り気らしい」

ジュリアンが口にした家名を聞いた瞬間、ソレントは背中に冷たいものを感じたのだった。