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56.待ち伏せ

オルフェは双児宮に入ると、壁や柱をじっくりと見た。
「忙しい方だから、罠でも仕掛けるか」
思わず呟いた言葉に、
「不穏な発言はやめろ」
と、ツッコミが入る。
いつの間にか双子座の黄金聖闘士が廊下に立っていた。

しかし、オルフェは気にもとめず壁に触れた。
「黄金聖闘士相手に何かを尋ねたいと思うなら、それ相当の覚悟が必要ですからね」
彼は険のある眼差しでサガを見る。
「どういうことだ」
「……。ユリティースが蛇に噛まれたと聞いたとき、僕は聖域が彼女を傷つけたのだと考えました。
女神を大事とするあまり、聖闘士の想う者を排除しようとしたのではと……」
「……」
「あの時、命じましたか?」
この問いに答えろ。 オルフェの目はそう言っている。
サガは意を決したように、口を開いた。
「そのようなことはしない。当時のユリティースはこちらを疑ってなどいないのだからな。
教皇の秘密とまるで関係のない女性を、いきなり攻撃したりはしない」
何しろユリティースは十二宮へ近づいたことすら無いのだ。
この説明にオルフェは納得した。
「それもそうですね。僕もここには絶対に近づくなとユリティースに言っていますから」
「……」
「さすがに黄金聖闘士に見初められるという事態は避けたいですからね」
オルフェの惚気にサガはため息をつく。
「狂気だな」
その呟きに、琴座の白銀聖闘士は薄く笑った。
「どうとでも言ってください。僕にとって彼女は命であり、道を踏み外さずにいられる標なんです」
彼はサガに一通の手紙を渡す。
「なんだ、これは……」
「お茶会の招待状です。 ユリティースとエスメラルダさんが貴方を招待したいそうです」
「えっ……?」
「あなたの返事次第では破こうかと思っていたのですが、渡して大丈夫なようですね」
中を見てみると、拙い字で書かれた手紙があった。
「……」
「エスメラルダさんが女官たちから字を習っているのですよ。
たまには妹分の成長を見に来てください」
オルフェは用事が終わったとばかりに、返事も聞かずにその場から立ち去ってしまう。

こうなるとどっちにしろ強制参加ということになる。
しかし、迷いもあった。
(……私が行っていいのか?)
自分自身がお茶会などという穏やかそうな場にいても良いのだろうか。
でも、行かなければエスメラルダがいらぬ心配をするかもしれない。
(……覚悟を決めよう)
サガは再び教皇の間へと向かった。
明日を完全にオフとするために、仕事を前倒しして終わらせることにしたのである。