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女神ヘカテの世界から戻ってきてから、ジュネは溜め息をつくことが多くなった。 彼女の左手の薬指には、アンドロメダの聖闘士が女神ヘラから贈られたという指輪が光っている。 「聖域の方でジュネさんに命令違反について何か言ってきても、僕が許可しないかぎり誰もジュネさんに無理強いは出来ないからね。 そして僕は絶対にそんな許可はしない。これは約束の指輪だよ」 当の本人は半分照れたように指輪について説明をした。 ゆえに外しては駄目だと言われたが、彼女の方にしてみれば瞬の立場を悪くさせる方が辛い。 これでは外部から自分に対して攻撃的な行動があったとき、彼が矢面に立つことになる。 あまりにも優しい弟弟子の対応に、ジュネは悲しくなってしまった。 でも、日本行きの命令が下れば瞬に会えるのが嬉しいと思う自分がいる。 だから彼女は今回で決着を付けるつもりだった。 |
ジュネは自分の用事を終わらせると、城戸邸にある瞬の部屋に向かう。 案の定、本人は部屋にいた。 彼は笑顔で姉弟子を出迎える。 「ジュネさん。用事は終わったの?」 いきなり話があると言われ、瞬は困惑気味になる。 相手から恋人同士の語らいを楽しみたいとかいう甘さが感じられないのだ。 「とにかく座って……」 個人の部屋ということで、ジュネはベッドに腰掛ける。 そして泣きそうな表情で瞬を見たのだった。 「ジュネさん?」 「……瞬。私のことは気にしなくて良いのよ」 「えっ??」 話の意図が見えず、瞬はどう返事をして良いのか分からなかった。 「何のこと?」 するとジュネは彼の目の前で指輪を外した。 「だから、約束の指輪。これは結婚の約束を意味するのだから、瞬は好きな子に贈るべきだわ。 色々と問題のある私に持たせるものじゃない」 そう言って返された指輪を、瞬はじっと見る。 「ジュネさん。僕のこと嫌いだったの?」 「……」 どう返事をして良いのか分からず、ジュネは黙ってしまう。 嘘をついて頷いたら、涙が零れ落ちそうだった。 「ジュネさんが僕を好きでいてくれるなら、何も問題はないよ」 瞬は、再び彼女の薬指に指輪をはめる。 「ジュネさんに問題があるとしたら、求婚者が多すぎることかな」 「えっ?」 「この間沙織さんが教えてくれたんだけど、女性の聖闘士って他の神殿の女神様に盗まれやすかったんだって」 何の話なのか分からず、ジュネはキョトンとしている。 瞬は構わずに話を続けた。 「自分たちだけの味方にしたくて、向こうは眉目秀麗、育ちの良い神官を用意する。 だから他の女神の神殿に警護とかに向かった女性の聖闘士たちは、いつの間にか帰って来なくなって聖衣のみが返却されるという事態が何度かあったそうだよ」 瞬は座っていた椅子から立ち上がる。 「その話を聞いたとき、ジュネさんを誰かに取られるのは絶対に嫌だと思った」 「……」 ジュネの横に腰掛けた後、彼は勢いよく恋人を抱きしめた。 「僕がいいと言って」 「……瞬」 「ジュネさんを追いかけるのも傍にいるのも、僕がいいって!」 絶叫にも近い瞬の本心に、ジュネは呆然とした。 しばらくして、今度は彼女も縋りつく。 そして彼女は震える声で答えた。 「瞬がいいの。だから……、だから……」 ──もう置いていかないでね。 その言葉に、今度は瞬の方が泣きそうになってしまった。 |
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