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34. 69

「一冊足りない……」
先の戦いで荒れてしまった書庫の整理を神官たちを一緒にやっていた那智は、机の上に置かれた全集を何度も数え直す。 それらは過去に聖域の神官がまとめた本なのでノートみたいな作りなのだが、昔の聖域で起こった出来事や伝承などが書かれており、神官たちにとっては重要な資料だった。
「何巻が無いんだ?」
同じように手伝いをしていた檄が尋ねる。 彼は非常に力がある闘士なので、神官たちでは何度も往復する羽目になるような大量の本を所定の場所に一気に運んでいた。
「全70巻なんだが、69巻が無い」
表紙には少し小さめではあるが、ちゃんとアラビア数字でナンバーが書かれている。 勘違いのしようがなかった。
神官に確認を取ってみると、昔から無かったという返事だった。
「最後から二番目か」
「単に何処かに紛れているのならいいが、この資料は厚さが均一なわけではない。どんなものなのか見当がつかないから探しようがないな」

もしかすると聖域がポリュデウケースの配下にあったときに、焚書の犠牲になったのか。

欠本として記録に残そうとしたとき、書庫に星矢がやって来た。
「那智、これらの返却を頼んで良いか?」
手には何冊も本を持っている。
「随分、借りていたんだな」
「魔鈴さんが本も読めって煩いんだよ」
聖戦において冥王という存在を詳しく知りもせずに、星矢が聖戦に参加したことがバレたのである。
それが今となっては良かったのかもしれないが、次に大きな戦いが起こったときに通用するかは分からない。 問題解決のために資料を調べるという選択肢もあることを分からせる為、彼女は弟子に本を読むことを命じたのである。
「でも、よくわからなかった」
星矢はため息をつく。
「これなんか意味不明の画集だった」
彼は一冊の本を那智に渡す。上部が紐でとじられており、中には記号のようなものが描かれていた。
何となく見覚えのある本に、渡された方は首をかしげた。
(まさか……)
表紙には占星術で使われる『蟹座』のマークが書かれていたが、左まわりに動かすと69という数字になった。
「檄。これが69巻だ」
那智の呆れたような言い方に、檄は本を覗き込む。
「今まで書いたことを、絵で説明しようとしていたらしい」
しかし、描いた人物は記録絵を残すには向かないセンスだったらしく、正体不明の本になってしまったのである。
何故、この69巻目が昔から無かった扱いなのか。 全ては謎でしかないが、三人とも同じことを考えてしまった。
(的確に描写できる人間に、補足本を作ってもらった方がいい)
それも、シオンと童虎が聖域にいる間にである。

「一大プロジェクトだな」
那智はそう呟くと、本を全集の上に置いたのだった。