目次

陽差し

その贈り物は、とても繊細な枝振りの苗木だった。  

「これはなんじゃ?」
童虎の問いに、聖域から苗木を持ってきたシオンは苦笑いをした。
春の陽射しが心地よい畑で、紫龍と春麗も仕事の手を休めてそれを見る。
先の騒ぎで多少荒れてしまったらしい畑だったが、若者へと変貌した童虎も身体を動かしているので仕事はかなりはかどっているらしい。
「某女神からお前たちに贈り物だそうだ」
「何?」
「受け取ったのがエウ……いやユリティース殿なので、詮索は無しだ」
聖域にて暮らしている太古の女神の側近が受け取ったのであれば、相手はだいたい想像はがつく。
しかし、向こうがそれを望まないのであれば確認してはならない。
「それで、これをどうしようというのじゃ」
新芽はまだ固く、どのような木なのか童虎にもはっきりと断言ができなかった。
「ユリティース殿の言うことには、東方の知人とかが女神に捧げた苗木らしい。
良い木に育つらしいが、土が合わないのか木の性格が強情なのか向こうでは全然成長しなかったそうだ。
ということで、土地を傷つけた詫びも兼ねて譲るということらしい」
義理堅いというべきか、たんに厄介払いされたのか。
しかし、三人は興味津々に苗木を見つめた。

「老師。畑の傍に植えましょうか」
紫龍の言葉に童虎は頷いたが、春麗は家の傍がいいと言った。
「こんなにも細い子なのだもの。動物たちに折られちゃうわ」
そう言われると、たしかに安全面に不安がある。
いくら押しつけられた苗木でも、ぞんざいに扱っていい訳ではない。
その女神は紫龍に力を貸してくれた大恩ある存在なのだ。
「どんな木になるのかしら?」
春麗は苗木に顔を近づける。
どう見ても普通の苗木で、嫌な感じはしない。
大木になるのか、否か。
それによっても植える場所は考慮しなくてはならなかった。

「じゃが、葉が出て花が咲けば大体の推測が出来るが、本当に今年中に成長するのか分からんからなぁ」
太古の女神の許で成長しなかったというくらいなので、童虎の心配はもっともである。
シオンは腕を組んで、二人の聖闘士に威圧的に命じた。
「お前たちを聖域に呼び戻してはどうかという話が出ていたが、童虎と紫龍は五老峰に残留だ。
冥闘士たちを見張るという命令は無効になったが、この贈り物を無下に扱うわけにはいかない」
聖域側の裏事情に、三人は驚く。
しかし、シオンは構わずに言葉を続けた。
「たとえ今年は上手く成長出来たとしても、来年、再来年になって枯らしたら聖域の威信に関わる。
ちゃんと管理しろよ」
この地で後継者を育てろと言わんばかりの親友に、童虎は弟子と愛娘の方を向く。

紫龍と春麗はお互いの顔を見つめたあと、何を言われたのか理解し顔を赤くしたのだった。

「まぁ、今日植えるのは止めておこう。
太古の女神を手こずらすほどの強情者なら、自分が根を下ろしたい場所をわしらに教えるだろう」
そう言って童虎は笑ったのだった。