「エリスは地上へ行ったのか?」
眠りの神ヒュプノスは長椅子に寛ぎながら兄弟に尋ねた。
しかし、相手は睨み付けるような眼差しで立っている。
二柱の神は光のカーテンを挟んで対峙していた。
「……」
「何を怒っているのだ。
お前も優しい神だと言われるようになったのだ。
もっと愛想よくしろ。 タナトス」
その言葉に、死の神は思いっきり怒鳴り散らした。
「やかましい!
貴様がホルコスに何を頼んだのか、こっちが知らないと思っているのか」
ホルコスは誓言を司っており、彼らの兄弟であった。
ヒュプノスは腕を組んで悩むふりをする。
「お前がいつまでも独り身だからヘカテ様が嫁候補を見つけてくれたというのに、聖闘士に讓るような真似をするから、ホルコスを動かした方が良いと思っただけだ。
ホルコスの前で行われた誓約は、確実に強要できる。
本人を目覚めさせた後、お前との結婚を誓わせれば土壇場で嫁取り可能になる」
真面目な顔で言われて、タナトスは自分の兄弟に必殺技を食らわせたかった。
しかし、過激な兄弟喧嘩は母ニュクスを困惑かつ悲しませてしまう。
タナトスは最大限の理性を働かせた。
「このような茶番を演じているのは、エリスを海の至宝に会わせたいからだ。
後始末という理由が無ければ、エリスは何もかも我慢してしまう。
だから我々は大義名分として、喧嘩をしている事になっているのだ」
「……」
「だが、本気で嫁取りについて謀をしているのなら絶対に許さん」
タナトスは怒りのオーラを撒き散らしながら部屋から出て行く。
ヒュプノスは閉じ込められているため、そこから出られない。
不便ではないが退屈だった。
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