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約束

 ゼドムとの戦いのあと、俺は西の管轄へ移動となった。

 ボルシティで何故、俺たちが集められたのか。
 正直言って、あの頃の俺は女と一緒でないと眠れないというくらいチャランポランな生き方をしていた。
 だからストイックな哀空吏とはソリがあわず喧嘩ばかりしていた。

 元老院は俺たちに何をさせようとしていたのか。
 それについて、先日、哀空吏が元老院の者からようやく聞き出して、俺に教えてくれた。

「ソウルメタルの材料となるプラントを生み出すゼドム。それが万が一にも鎧を支配する能力を持ったとき、普通の魔戒騎士では取り込まれてしまう」

 だから、その能力に対抗できる資質をもった俺たちが集められたというのだ。
 どこでそんなことが分かるんだ?と聞きたいが、人間離れした者たちの集う元老院のことだ。
 わけのわからない選別方法で俺たちを選んだのだろう。


 そう思うと、符礼法師も大変だっただろうなと、人ごとのような感想を呟きたくなる。
 まぁ、俺たちが若造で魔導馬を持っていないのも幸いだった。
 ゼドムの支配下じゃ、魔導馬が真っ先に操られてしまう可能性がある。

「陰我にまみれたオブジェは浄化したし、夜までひと眠りするか」
 昔だったら適当に女のところへ言って遊ぶところだが、今の俺には心に決めた人がいる。
 彼女とはもう二度と会えないけど、あの愛らしい笑顔を想い出して心の支えにしている。他の女じゃ、ここまで心は癒されない。

 それでも、胸を掻きむしられるくらい切なくて苦しい日には、無性に会いたくなる。
 会いには行けないけど。

 なんだか思考がヤバイ方向へ行きそうなので、無理矢理眠ることにした。
 そのとき、窓から青い光が入ってきた。
 莉杏の魔界竜だ!


 急いで窓の外を見たが、あの派手めな姿で一途な魔戒法師の姿はどこにもない。
 部屋の中を再び見るとテーブルの上に紙があった。魔界竜の姿は消えている。
 俺はその紙を見た。

 書かれている文章に息をのむ。

『猛竜へ
 ごめん! 類ちゃんがボルシティからいなくなったって哀空吏から連絡が来た。
 考えてみれば一度、術で記憶を弄っているから二番目の記憶抹消の術、上手く機能し続けられなかったみたい。
 ということで、後はよろしく☆』

 なんだ、この文章は!
 彼女がいなくなったって、どういうことだ!!
 俺は矢も盾もたまらず、外へ飛び出す。

 このとき、外にいた人とぶつかりそうになった。

「猛竜さん!」

 その声に、俺は動きが止まる。
 そこにいたのは、会いたいと願い続けた女性。
 会ってはいけないと考え続けた俺の宝物。

「ようやっと見つけました」

 彼女の笑顔に、俺は動けなくなった。
 眩しすぎて目が痛いのか、涙が出てくる。

 〜終〜