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君の隣にいるために 番外編 1

レオ 編

 過去の大罪の詰まった魔窟を封印した二日後、僕とワタルさんはとある屋敷の前にいた。
 術の暴走をくらった為に少しの間動けなかったけど、この封印の直後、元老院に新しい情報が入った。元神官だった人の屋敷に、突然、入れなくなったというのだ。
 もう亡くなっている人の家なのだけど貴重な本などがあるということで、そのまま機密扱いの資料庫になっていた屋敷。
 この家を知っていたのは神官レベルの存在なので、僕は噂だけしか聞いたことがない。
 グレスさまもこの屋敷は無関係であって欲しかったと言っている。
 とにかく調査のため屋敷に行ってみると、結界の界符がベタベタと貼られている。いったい誰がこんなものを付けたんだ?
 界符の内容を見ていると、どうにもこの家の主は自分が滅びると言うことに恐れを抱いている。
「元神官が陰我に取り込まれるとは、面倒な奴だな」
 ワタルさんは周囲を見ながら家の中に入る。
 もしかして、亡くなったというのは嘘なのか??


 以前、東の管轄の神官たちがバラゴと言う男に魅入られて策謀の限りをつくし、鋼牙さんが反旗を翻すという事件があった。
 力がある分、能力が高い分、普通の人よりも陰我に取り込まれやすいのだろうか?
 そんな事件が続けば、神官職など必要ないという事態になりかねないのに。
「人を使っているうちに、自分が別のものに使われていることを忘れてしまうのだろうな」
 ワタルさんの言葉に僕は立ち止まる。
「別のものですか?」
「カミサマに近づいたと思っても、所詮、人がなれるのはカミサマモドキだけだ」
 屋敷の中は相変わらず静かだ。
 人の気配などない。界符が多いから、それらが全て偽りということも有りうるけど。
「それにしても、音もしないというのは怪しいな」
 その言葉に頷いたとき、後方から何かが壊れるような音が屋敷中に響いた。
「何だ!」
 僕らが駆けつけると、そこにいたのは建物の柱を壊したらしい……鋼牙さんが立っていた。
 えっ、えっ、えぇぇぇぇ〜っ。
「鋼牙さん!」
 いつ帰ってきたんですか!と言おうとしたら、
「おぉ、長期出張は終わったのか?」
と、ワタルさんにトボケたことを言われてしまった。 


「二人にはカオルのことで世話になった」
 うわ〜っ、鋼牙さん、頭なんか下げないでください! もともとこちらの不手際でカオルさんに迷惑をかけたくらいなんです。
『鋼牙の奴が是非ともここの主(あるじ)に会いたいと言っているんだが、どこにいるのか分かるか? レオ』
 ザルバの言葉に僕は困った。
「それが、気配がなくてさっぱり分からないんです」
『反応がないんだよ』
 エルバの返事に鋼牙さんは眉をひそめている。
「何もか?」
 その問いに僕とワタルさんは顔を見合わせる。
「そういえば鋼牙、何で柱を壊した」
 鋼牙さんの斜め後ろには、屋敷の柱が壁とともに大きな穴が開いている。
 もしかして、ここから入ったのかな?
「出入り口が開かなかった」
 尊敬する黄金騎士は簡潔に答えてくれた。

 鋼牙さんの情報によると、玄関も窓も開かなかった。
 しかも、ここでは術の発動のような現象があったので思い切って壊したとのこと。
 ということは……。
「僕らでは、この家は人畜無害を演じるようですね」
 そういうとワタルさんの魔導輪ウルバが『なんで、なんで〜』と説明を望む声を出したので、ワタルさんが彼に説明をしてくれた。
「対魔戒法師、魔戒騎士については人畜無害を演じて生き延びる手段を講じているのだろう」
 この家には重要なものがたくさんある。家を壊すのは僕らも避けることが出来たら良いと思っているくらいだ。
 そう考えられているうちは、この屋敷の重要な場所も壊されることはない。
 では、何故、鋼牙さんには通用しないのか。

『鋼牙の場合は規格外だからだろ。色々な意味で』

 ザルバの意見にうっかり頷けなかった。鋼牙さん、自分の魔導輪とケンカしないでください。

「それなら鋼牙に先頭で移動してもらおう。とにかく過去の負の遺産は取り除きたい」
 このとき僕の脳裏に、この家の亡くなったという主(あるじ)の悲鳴が聞こえたような気がした。
 でも気のせいだ。その元神官は、もう亡くなっている。 


 そして鋼牙さんの協力により、屋敷の中枢は壊滅、書庫の方は無事だった。
 いままで僕らの前に隠されていた、数多くの書籍たち。本棚を見るだけでも古そうな資料とかが沢山ある。
 これらの知識が失われたら、僕らは再び多大な犠牲を払って情報を得ないとならない。
 ……今、読んでいいのなら、三日間くらい籠もっていたいかも。
「すごいもんだ」
 ワタルさんも驚いている。
 鋼牙さんはというと、なんだか意外にも懐かしそうな表情をしている。何か知っている本があったのかな?
 そして一冊の本を手に取った。
『鋼牙、何の本を見ているんだ?』
 すると鋼牙さんはザルバに本の表紙を見せる。
『おい、魔導輪を躾る10の方法って、何だよ』
 えっ! 読んでみたい。
『そんなのが必要な魔戒騎士はいるのかい? ねぇ、レオ』
 エルバが僕に同意を求めた。


 とにかく屋敷は再び結界を張る。元老院と閑岱で本の扱いについて協議になると思う。
 僕らは元老院に戻ってグレスさまに報告をすることにした。

 戻る途中、ふと鋼牙さんの方を見る。
 屋敷の中枢にて黄金騎士となった鋼牙さんを見たとき、あることを思い出した。
 あの狂気の魔戒法師と一緒に術の暴走をくらったとき、暗闇の中で黄金騎士が巨大な何かと戦っていたのを見たような気がしたのだ。
 もしかして……と思ったけど、ヘタな事を言うと鋼牙さんに睨まれそうなので、僕だけの秘密にする。

   〜終〜