INDEX
 
目次
 


君の隣にいるために 番外編 1

零 編

 サバックの優勝者が入れるという部屋で、俺と先代の黄金騎士牙狼である大河さんは、侵入してきたホラーたちをほぼ全滅させた。
 さすがは牙狼の称号を持っているだけあって、その動きとパワーは間近で見ているだけで感動するし勉強になった。
「ところで銀牙騎士に尋ねたい」
 この人に称号で言われると何だか恥ずかしというかこそばゆい。
「涼邑零と言います。零と呼んでください」
 もうガキくさい対応しかできないけど、それくらい俺はあがっている。
「では、零に尋ねたい」
「はい」
「鋼牙はまだ独身なのか?」
 ……はい?
「あれは真面目で潔癖的なところがあるから、生涯独身を通すと言い出してゴンザをやきもきさせているのではないかと、かなり不安なのだが……」
 えぇぇっと、いきなりアットホームな内容に俺は戸惑う。
 確かに過去、売り言葉に買い言葉というか……。うぅっ、己の悪行を思い出すといたたまれない。
 そんな俺の前で、目の前で大河さんがため息をつく。
「そういう言葉はたまに力を持つ。だから思っていても言ってはいけないと教えればよかった。このままでは結婚出来なくなるぞ」
 あまりにも寂しそうな顔をするので、俺はすぐさまギャノン戦のあとのことを喋った。
「結婚なら大丈夫です。正式じゃないですが……」
 その時のことを説明すると、大河さんはほっとした表情を見せてくれた。よかった、よかった。
「それで、相手の人は?」
「御月カオルと言って、新進気鋭の画家というか、絵本作家というか……」
 カオルちゃんの職業って、どう説明すればいいんだ? 今度、本人に聞いてみよう。
 そんなことを考えていたら、大河さんは「そうか、そうか!」と言って俺の肩を何度も叩いた。
「鋼牙があの人の娘さんを射止めたか」
「知っているのですか?」
「彼女の父親が私の知り合いなんだ。鋼牙のやつ、初恋を貫いたな」
 うわ〜っ、トップシークレット情報というか、俺の死亡フラグが立った?
「彼女に会ってから、鋼牙の攻撃に鋭さが出始めて、集中力が格段にあがった。当時は本当にカオルちゃんを守りたかったんだろうなぁ」
 そんな昔から付き合いがあったとは。
 というか、本人には怖くて尋ねたくはない。
「私があんなことになってしまって、鋼牙の心が復讐に染まったときは辛かったよ」
 ふと、俺は大河さんの言葉が義父さんの言葉に聞こえた。
「大河さん、一つ教えてください」
「何かな?」
「親は子に、敵討ちをして欲しいと考えますか?」
 すると大河さんは即答してくれた。
「子には幸福になって欲しいとは思うだろうが、敵討ちも復讐もして欲しいとは思わないな。剣に生きた者が剣によって死ぬのは運命だ。剣によって死ぬのを嫌がったら、もうその者は剣も過去も捨てるべきだ」
 大河さんの言葉なのに、俺には義父さんが前にいるように思えた。
 義父さんは剣も俺たちも捨てなかった。
 俺と静香を巻き込んで辛かったのは義父さんだった。
 ふと、静香があの神聖婚で、俺の隣で微笑んでいた光景を思い出す。
 静香もまた銀牙騎士の娘として、俺の婚約者としてバラゴに立ち向かったのかもしれない。
 その誇りを俺が可哀想だなんて思って汚しちゃいけない。
「ありがとうございます」
 俺は大河さんに深く頭を下げた。 

   〜終〜