○ その他 編
淡い金色の光の中で、五色六枚の石版がくるくると回りながら浮いている。
そしてその周りを、金色の光がいくつも動いていた。
──幼き者、母を守れたようだな。
どこからか男性の声が聞こえてくる。一人のような気もするが、同時に複数いるような響きがあった。
──ハイ。
カオルから雷牙という名を貰った子供が答える。
──デモ、魔竜ヲ逃ガシテシマイマシタ。
子供は悔しそうである。
しかし、男は静かだった
──これらの石版は、冴島鋼牙の戦いの歴史を記したもの。お前にとっては教本にはなれど、実践には向かぬ。
──デモ……。
──お前はこれから時が来るまで静かに眠るのだ。そして今までのことを全て忘れる。
──エッ、全部、忘レチャウノ?
──そうだ。石版で覚えた技は付け焼き刃にすぎぬ。お前が後継者ならば、父、冴島鋼牙がその言葉で、その剣で、その生き様で全てを伝えてくれる。
次々と壊される石版たち。
子供は少し困惑していた。
──オ母サントノ約束モ、覚エテイタラだめナノ?
──すでに母、冴島カオルはお前と出会ったことを覚えてはいない。
その言葉に子供は動揺した。
──オ母サン……。
泣きそうな声で呟く。
──一つだけいっておく。母と子の絆はいくら我らでも故意に切ることは出来ぬ。お前はこれから誕生の時を待つのだ。お前が信じ敬愛する母ならば、きっとお前を産む。
子供は納得したらしい。
この世界では一秒も一年も、十年も、たいした差ではない。
──……オヤスミナサイ。オ母サン、オ父サン。
子供の声はそれっきり聞こえなくなった。
淡い金色の世界に静寂が戻る。
今度、雷牙が目を覚ますのは、両親のいる世界に生まれたとき。
『そのときがちゃんと来ますように』
眠りにつく直前、誰かの祈りの言葉を彼は聞いたような気がした。
|